犬へのリーダーの必要性
犬のしつけにおいて、
犬の心理とは、群れの構成員がリーダーを求め、それに従うという性質を持った動物のそれ
と基本的に同じです。彼らは自分たちを導くリーダーに、喜んで責任を預けます。
子犬が生後3週目になると母犬は罰を与え始め、その傾向は離乳の開始される5週目から強
まります。母犬は稔り、首を歯でつかみ上げます。群れの他の犬たちも子犬の鼻づらや首をと
らえては引っくり返し、この生意気な奴に自分を敬うようにさせるのです。
しかし、子犬は先輩たちに臆することなく服従の姿勢をとって、つきあいを求めます。こう
して子犬は社会的階級の中に参加し、今後、少しでも上の位置につこうとするのです。健康な
子犬は出世主義者で、可能な限り上の位に登ろうとします。
考えてもごらんなさい。もし、犬に従う意思がなければ、どんなしつけ方法も役に立ちませ
ん。しかし、同時に飼い主が行うしつけの方法が犬の将来の行動を決める決定的な要素なので
す。犬はよい、あるいは悪い(これはまれであるが)性格を持っているかもしれませんが、い
ずれにせよあなたのしつけのやり方が、すべてを決めてしまいます。
犬の年齢がいくつであるにせよ、もし犬が権力を握ってしまったなら、あなたは教育者として失格です。
親というのは、しばしばあまりにも「甘い」ものです。これに似た飼い主は、犬が勝手なこ
とを要求しても譲歩し、それが繰り返される結果、表面に現れない深層心理に於いて、犬を権
力者に仕立てあげてしまいます。この飼い主は、もし犬を好き勝手にさせないと、自分が嫌わ
れてしまうと恐れているのでしょうか。
第5章誰が物事を決めるのか
甘やかされた犬が問題犬になるのです。寛容と支配の欠如が対になって、問題の原因を作り
出します。服従している犬は、支配者の所有物を壊したりしませんし、家の中に縄張りの印の
小便をすることはありません。また、家人を噛んだり、脅かしたりもしません。さらに、一日
中ねだったり、あなたをうんざりさせたりせず、ある程度ひとりでいることを受け入れます。
生後数週間の小さな子犬に対する愛撫が支配力の表明であったとしても、離乳後はまったく
異なった意味を持ちます。犬の群れに於いては、愛情の表現を受けるのは支配者であり、撫で
すぎたり愛情を示しすぎたりすれば、犬は自分がリーダーなのだ、と心の中で思うようになる
のです。したがって、この時期に体罰を与えればあなたの支配性を強化しますし、生後15週目
には飼い主の犬に対する支配関係が確立しないと、将来にわたって様々な、そして不愉快な問
題が発生するのです。この時期に「訓練学校」に通うことを強くおすすめします。
(訳注欧米の訓練学校は犬だけを預けるのではなく、飼い主が犬を連れて学校に通い、双方が訓練士の指導に従うものである。力点は飼い主に犬の扱い方を教えることである。参考のため、訳者の知る範囲の、欧米流
訓練施設を巻末に紹介した)
社会性を持たせる訓練(ヴォルマー)は、リーダーと部下の関係を確立させるのに役立ちま
す。子犬は頭ではなく、肉体により学習するのです。一方で子犬に飼い主が十分な力を持ち、
他方では痛いことをしない、ということをわからせなければいけません。そうすると、犬はあ
なたを信頼し、求めるようになります。
「持ち上げ」は、犬のやり方を真似し、子犬の首の皮をつかみ上げる方法ですが、少し大きく
なった犬にとって苦痛である可能性があります。したがって、両手を犬の肩の後ろに差し込み、
持ち上げ、じっと犬を見据えます。もし犬が騒いだら、揺さぶり、声を荒らげます。静かにな
ったらやさしい言葉で褒めてやりましょう。この訓練を様々な場所で、できれば家族全員で代
わる代わる行ってください。
もし、犬が大きくて重かったり、あるいは訓練を行う人が弱かったり幼すぎるなら、別のや
り方で行いましょう。同じ結果が得られます。犬にまたがり同じ方向を向いて脇の下に両手を
入れ、上半身を持ち上げます。もし静かにしていたら、褒めながら30秒ほどそのままの姿勢で
います。犬が騒いだら叱り、片手で首の皮をつかんで振ってやります。
「逆転」は「持ち上げ」られた犬の向きを変えるやり方です。
「服従の姿勢」は犬を横に引っくり返し、脇腹を露出するように後ろ足を上にあげさせます。
そして、一方の手で首筋を押さえ、他の手で足や鼻づらに触ったり、唇を引っくり返し、顎を
つかんだりします。
(訳注「服従の姿勢」に於いては、横向きではなく、完全に仰向けにするほうが効果が大きい)
これは、犬が自分より優位な同属に対し、服従の意を表明する時にとる姿勢です。この訓練
を屋内、屋外の異なった場所で繰り返します。これらをやさしく実行すると、爪を切る、歯に
ブラシをかける、耳の掃除をするなどを、子犬はより簡単にやらせるようになってきます。