犬の胎児時
子犬をしつける前に・・・
妊娠中の母犬が強度のストレスを受けると、感情の高ぶりやすい子犬が生まれることが証明されています。
母犬がおかれた精神的環境が、胎内の子犬の性格に影響を与えるのです。「もし、母親が不幸でうつ状態であったり、精神状態が不安定であると、より高い確率で神経症の子犬が生まれる。なぜなら子犬たちの性格が、恐怖と苦悩の中で形成されるからである」(ヴェルニー)。
精神的に不安定な母犬は、健全な母犬よりも不安定な性格の子犬を産む可能性があります。
これは一種の遺伝現象ですが、染色体に関連があるのでしょうか、それとも胎内での発育の過程でホルモンが過度に流入して、感情を制御する視床下部に悪影響を与えるからでしょうかり・妊娠中の母犬の食事に欠陥があると、生まれた子犬たちは異常な食欲を見せるようになります。いくら食べても足りないのです。したがって妊娠中の雌犬には、偏りのない、栄養的にバランスのとれた食事を与える必要があります。母犬の食事が不適当であると、その子犬たちはいくら食べても満足せず、ついには肥満となってしまいます。
食物の欠陥と同じように、母犬のおかれた精神的環境は胎児の将来の性格に影響を与え、子犬の神経系統に消すことのできない傷痕を残すのです。母犬が愛情の中ではぐくまれれば、楽天的で情愛の深い性格を作り、逆に親の不安は、苦労性で憎しみに満ち、他の動物と社会的きずなを作るのを拒否する厭世的な性質を作ってしまいます。
精神的環境とはまったく逆に、母犬の抱くその時その時の感情は経過的なものであり、子犬の性格形成に、積極的かつよい意味で役に立ちます。種々の、あるいは時として相反した心の動きは、子犬の意識と感受性の発育を促すのです。
したがって重要なことは、胎児の視床下部、あるいはほかの中枢部に影響を与える、過度のホルモン分泌です。母犬のおかれる精神的環境、心理状態は血液中のホルモン分泌を促し、胎盤を通じて胎児に作用する結果、感情の動きをつかさどる中枢部(特に視床下部、自律神経中枢)が影響を受け、誕生前に組織的な悪い素地を作り上げてしまいます。
母犬と胎児間のコミュニケーションは次の3つの方法で行われます。まず、胎盤に流入する様々な生命要素。ついで犬の体位によるものが考えられ、母犬がある恰好で横たわる、脇腹を引っかくなどすると、胎児は自分の位置を変えてそれにこたえます。これとは別に、胎児は愛情を受信する装置を持っており、母犬の小さな心の動きもそこに記憶されるのです。この交感作用の結果は、生誕後しばらくの間、子犬を支配しますが、それぞれの精神構造の発展に伴い弱められます。ただ、いくつかの個体は、これらの超心理学的な能力を保持し続けます。
胎児が産道を通過すると、皮膚に多数の刺激と大きな感情の変動(圧迫感による喜びと苦悩)が与えられますが、帝王切開に於いてはそれらの現象は起こりません。その結果、帝王切開により生まれた子犬は、肉体的な接触、愛撫、あるいは抱きしめられたい、という激しい欲望を持つのです。
不安を感じている雌犬は、なるべく心休まる環境に移してやります。慣れた場所において、急激な温度変化、過度の、あるいは強制的な投薬、激しい運動、車、船、飛行...機による思いやりのない移動や引っ越し、孤独などを避ける必要があります。母犬になろうとする犬を過度に甘やかしてはいけませんが、深い愛情で包んでやり、食事は適切なものを与えます。
分娩所は、家人から完全に隔離されてはいない安全な所で、しかも過度の光線、騒音、家人や訪問者の動きなどの影響を受けない、静かに休息できる場所でなければいけません。雌犬は
そこに慣れ、自分の領域と感じる必要があるのです。このような理由から、その場所は外に面した(可能なら庭)静かな部屋がよく、車庫や酒蔵はよくありません。
飼い主、あるいはブリーダーは分娩の時に平静を保つべきです。あなたの心配を犬に気づかせ、すなわち飼い主の心理が犬に影響を及ぼして、出産が近づくとヒステリックに鳴いたり、吠えたりすることを教えてはいけません。また、世話をやきすぎたり、常に犬の邪魔をしたりすると、母犬の精神状態を不安定にし、時には子犬たちを殺してしまうこともあります。
以上のような助言は昔からありましたが、それは、記憶、性格形成、あるいはいくつかの間題ある行動の原因が誕生前にすでにあるのだ、という科学的根拠に基盤をおいているのです。
この重要な問題についてもう一言。
ある生後9週目のボクサーは、生まれて初めて見た「攻撃訓練者」(犬の攻撃訓練を行うため、特殊な防具で身を固めた訓練者)にすごい勢いで飛びかかり、足にぶら下がりました。
父犬はこの種の訓練を受けていませんでしたが、母犬は十分な攻撃訓練を習得していたのです。
この子犬が訓練者を攻撃する特別な理由はなく、このような行為が遺伝子に組み込まれていたわけでもありません。ではどうしてこのような特殊な行動をとったのでしょうか。偶然り・我々はそうは思いません。記憶に関する化学的物質が子犬に伝わったのでしょう。
迷路に慣らされたネズミの神経組織をほかのネズミに移植すると、前者の記憶が後者に伝達され、はるかに上手に迷路の中で行動できるようになる、ということは確かなのです。つまり、記憶は移植可能なある媒体に固定できるのです。しかし、親子間の転移は可能なのでしょうかり・我々は可能と考えています。
では、攻撃訓練は問題を引き起こす可能性があるでしょうか。家族の友人たちを人なつっこく迎えることが期待されている同伴犬においては、少なくともその可能性が十分あるでしょう。訓練を受け、十分に制御のきく犬にこのような問題はまず起きませんが、子孫にはその可能性が多分にあります。
あなたがやさしい同伴犬を求めているなら、購入する前に両親が攻撃訓練を受けていないかどうかを十分に調べ、よく考えてください。