犬の新生児時代
誕生から2〜3週の間の時期を、新生児時代と呼んでいます。この期間は、胎児状態の行動様式から、兄弟たちと最初の接触を持つ第1期社会化時代までの移行期といえます。
子犬は胚胎膜に包まれ産み落とされます。母犬は膜をなめ、食べてしまいますが、動いたり叫んだりしない子犬には興味を示しません。そして、母犬の行動が呼吸を起こさせ、呼吸は母犬になめられる刺激で活発になります。鼻づらをなめられるとその刺激で胎児は移動しはじめ、母犬の脇腹に触れ、ついで乳房まで進むのです。
生まれたばかりの子犬の反応は、母を探すという方向に向けられます。生きるための必需品と、最初の感情の触れ合いを、母犬こそが与えてくれるのです。
会陰部をなめることにより母犬は子犬の大小便の排泄を促し、皮膚をなめられることで、胎児の呼吸作用が刺激を受けます(なめられると呼吸頻度とその深さが増大する)。苦痛に対する反応(まだよくわかっていないが、痛感としてではないようである)は弱く、緩慢なので、いくつかの犬種におけるスタンダードの規定、あるいは特殊作業の観点から要求される断尾をするのには最も適した時期です。
何かの加減で巣から離れると子犬は激しく鳴きわめくので、母犬はそのたびに連れに行きます。
鼻をわざと触ってくすぐってやると「鼻づらで探す」反射作用が起き、子犬は疲れた様子もは見せず40メートルもの距離を這うことができます(フォックス)。この反応は子犬の目が開き、あとずさりができるようになる生後14日目頃には減少します。この頃、子犬は苦痛を与えられる、あるいは不愉快な刺激に遭うと、後退したり逃亡するようになります。
最初の週に於ける脳の発育は遅々としていますが、以降、脳の形態的発育はめざましいものがあり、6週目にはその頂点に達します。脳の発育と密接に結びついて動作は滑らかになり、5〜7週目頃に社会性を一番身につける年齢となります。
神経の発育はその器官の受けるいろいろな刺激の度合いと関係があるのです。子犬をたびたび引っくり返してやると、平衡神経はより早く、丈夫に発育することになります。刺激が機能を強化するのです。
生まれたばかりの子犬は目が見えません。もし視神経の成熟(6週目)までの間、犬を暗闇の中で育てると、目そのものは見えても、視神経が脳に刺激を伝えることができなくなるため、視神経障害になってしまいます(神経性盲目)。
同じように、子犬をまったく他の動物と肉体的に接触させずに育てると痛感を失い、火傷が苦痛であることがわからないので、蝋燭の火のにおいを嗅ぎに行ったりします。
生後3週目頃までは脳がまだ成熟していないので、体温の調節作用は完全ではありません。
第1週目では子犬たちはくっつき合って塊となって眠りますが、2週目頃には互いに平行な姿勢をとって休みます。このようにすれば無用な体熱喪失を防ぎ、体温を保てるわけです。視神経のほうは3週目頃に発達します。
食物摂取の行動は、吸乳(前足を突っ張り、乳首を吸いながら乳房から顔を離し、呼吸を容易にするとともに乳の出をよくする)の状態から急速に進歩し、3週目頃には消化のよい固形物を受けつけるまでになります。吸乳という、物を吸う欲求は減少しますが、それでも兄弟や異物を吸う傾向もあり、周りにあるものを口で試し始めるようになるのです。
腹がいっぱいになっても、乳首にくっついたままで眠ってしまいます。起こしてやると、また激しく乳を吸い始めます。
子犬は自分の要求、抗議、あるいは満足の鳴き声などを出しますが、これらの行為は生後9日目頃に頂点に達し、以降、4〜5週目に減少します。稔り声や吠え声は3週目に始まり、9週目頃まで増加し、それからも続きます。
この時期の子犬は通常、ブリーダーのところにいるので、その人に犬の能力を最大限に発展させる責任があるわけです。毎日犬をいじってやることは脳の発育を強化しますし、その行為が支配的なものであると犬には受け止められます。毎日体重を量りましょう。これによって、種々の健康上の問題を早期に発見できますし、犬を引っくり返すと平衡神経を早く成熟させることができます。犬を撫で、さすってやれば触感が発達します。
ラジオやカセットテープでいろいろな音を聴かせて聴覚を、ランプや鏡、懐中電灯などによって視覚を刺激してやれば、それらの感覚の発育を促すでしょう。しかし、あまりに強い刺激は幼い子犬にストレスを与えます。
巣の床に犬の足が滑らず、支えとなるような織物を敷いて、犬が歩き回りやすいようにしてやりましょう。
子犬は間もなく3週目に入ろうとします。各器官の成熟、離乳、成犬としての能力の発育など、彼らにとって最初の重要な時期を迎えます。これが第一の社会性を身につける時期なのです。