犬の精神
生後3週目
筋肉を緊張させる動作が滑らかになって、平衡感覚も整い、特に刺激されなくても排泄が行われるようになります。子犬は気がついた音や光線の方向に進んでいき、苦痛には激しく反応します。母犬との接触は減少し、それは離乳の遠くないことを知らせます。乳は間欠的に出ますが、吸乳は不規則になります。子犬は消化のよい肉を受けつけ始め、口を使って周囲の探索を開始するのです。母犬は彼らを罰するようになり、あまりうるさいと避けるようになります。子犬は喰ったり吠えたりしはじめ、記憶力も発達します。20〜23日頃に好奇心と探索欲は頂点に達します。
生後4〜5週目
子犬は徐々に成犬の知覚、運動反射を持つようになります。物を吸う反射作用は消え失せていきます。彼らは視覚、あるいは聴覚によって互いを認知し、近づいたり避けたりする動作も同時に表れます。新生児固有の行動は弱くなっていきます。
神経の発育によりそれまで備わっていなかった能力が生じ、新しい行動形態が出現するのです。この年齢になると、恐怖の反応も発達していきます。
脳波は成犬のそれに近づき、網膜の働きは5〜6週目までまだ完全ではないにせよ、視覚も成犬の能力に近いものとなります。犬がじっと見つめることは一種の威嚇なのですが、この行為が見られ始めます(犬は視線をそらせずあなたを見据える)。視界に於いて、奥行きと凹凸が感知されるようになります。まぶたの反射作用は14日目にすでに表れています。
母犬は徐々に子犬の会陰部をなめてやらなくなり、子犬は巣から離れて自分で用を足し始めます。括約筋の制御はより完全になります。親がなめてやると、子犬たちはよく前足を上げ尻尾を振ります。そして母犬の唇をなめますが、これらの行為は親の関心を買い、軟らかくなった食物を戻してもらうためです。前足を出す行為に続き、仰向けに引っくり返り、後ろ足を広げる姿勢も見せます。この行為は群れのほかの犬との遊びやつきあいの最中に、服従の姿勢として、徐々に明瞭な形をとるようになります。
子犬間の最初の喧嘩遊戯は4〜5週目に表れ始め、階級が成立し、それが以後数年続くことになります。耳を噛み合ったり、なめたり、相手に食いつく仕草をするなどしますが、やり方がひどすぎると鳴き声を出したり後ろに下がったりします。自分が噛むとどれだけ相手が痛がるかを、子犬は遊びを通じて理解するのです。首に噛みつく格闘技や、獲物を追いかけるふりも表れますし、攻撃性を示す吠え声、稔り、歯を剥き出す態度なども始まります。
この時期以降、子犬たちは小グループに分かれ、6週目頃からは1匹ずつとなって睡眠をとります。最初の性的活動の兆候が、特に雄に於いて、遊んでいる時に表れます。お互いに相手に乗りかかり、腰を動かします。この動作は4〜7週目に初めて表れるのです。
神経および神経系統の成熟は、5週目までに加速度的に進行します。この時期になると神経単位はまだできたばかりとはいえ、ほとんど成犬のそれと変わりがありません。4週目ですでに神経反射は成犬と同じになっています。人間の子供の場合、ここに至るまでには2歳の年齢が必要です。ここから、4〜6週目の犬は2歳の子供に匹敵する、という比較も可能でしょう。この頃になると、括約筋の制御も十分備わってきます。
5週目になると表情が豊かになり、3週目の子犬の無表情とは変わってきます。これは主として鼻づらが長くなったり、顔面筋肉がよく動くようになるため、唇をまくったり耳を動かしたりできるようになるためです。
子犬たちが相互に近づくには二つの方法があります。顔と顔を合わせるか、頭を相手の鼠瞑部に近づけるかです。後者の場合、近寄られた犬は、かつて母犬がその部分をなめてやった時のように不動の姿勢となります。この態度は成犬になっても変わりません。
子犬たちは群れとなって、口に何かくわえたりしながら互いに前後して歩き回ります。これが最初の群れで行う行動です。急に音を立てると、群れ全体で逃げ出します。
この年齢になると、巣から離れた一定の場所を排泄場所と決め、そこに相当執着するものです
生後6週目以降
この頃に、社会性を身につける最初の重要な時期がきますが、それは12週目くらいに終了します。同時に脳葉の発達も6週目までに著しく進み、成犬の外見的特徴が表れてくるのです。動作視覚、聴覚も発達するので、子犬は仲間と十分つきあえますし、最初の社会的関係と、喜び、あるいは嫌悪の反応を身につけるようになります。
5〜7週目に接触を求める行動が生じ、人間、またはほかの動物と社会的きずなを持つ可能性が生じてきます。しかし、12週目となると、子犬はほかのものを避ける年齢に達するので、この時期以降に社会性を身につけさせるのは困難となります。
この生来のメカニズムは、野生状態に於ける種の保存のためのものです。つまり、完全に親に保護されている期間は、同属と社会生活を営む態度を学ばせる一方、巣からひとりで離れる可能性のある12週目以降は、同じ態度をほかの動物に対してとるのを抑制するようになっています。この方法により、他の肉食動物に対し、避ける、あるいは恐れ、逃亡の反応を犬にとらせることができるのです。
したがって、生後5〜7週目は、子犬を新たな飼い主のところに連れてきて、今までと違った環境に慣らすのに理想的な年齢です。人間、あるいはほかの動物にたびたび接触させたり、都会や農村に特有な騒音などに慣れさせることが、これから生活していく新しい環境に親しませることになるのです。主人がしっかりとしたリーダーシップをとり、周囲の存在に対し社会性を身につけさせれば、好ましくない行動を見せたり神経症にかかったりすることを、将来にわたってほぼ完全に避けることができます。
新しくやってきた犬を夜ひとりにすると、犬が抱いている当惑した感情を表す遠吠え、鳴き声や吠え声を出す場合があります。これは決して悪いことではなく、これらを通じて新しい飼い主との間にきずなが生まれ、人間により早くなつくものなのです。
この年齢(少なくとも7週目以前)に於いては、それまで心地よい、あるいは嫌な経験をしたかは別にして、一定期間接触を保ったほかの動物すべてと親しくなるものですが、この年齢を過ぎても慣れるものであると考えてはいけません。
子犬が8〜10週目になった時、体罰を与えると、神経系統に深い傷痕を残し、人間を恐れたり避けたりする感情を植えつけ、一生消すことができないことがしばしばあります。
弱者に対しては集団で攻撃を加え、死に至らせるような傷を与える場合もあります。
服従の姿勢はこのような危険に対処するためにとられるのです。
服従の姿勢をとる犬が攻撃されることはきわめてまれである。集団生活を送る犬族に於いては、このような儀礼的行為により群れの構成員を無用に傷つけ、狩猟に支障を生じさせないしくみになっている。
私どもは5〜7週目に子犬を入手することを勧めているが、欧米の相当数の本が7週目を理想としている。ただし、これにも問題がないわけではない。早く入手すればするほど飼い主との関係がうまくいくのは事実であるが、他方、兄弟から早く離されると犬同士の社会性が十分でなくなり、将来他の犬に対して攻撃的になる可能性がある。したがって、早めに子犬を引き取ったなら、他の犬と極力接触させるなどを考えるべきであろう。